開催都市と日付:ロシア連邦, 7月13日
講師:川上 慎市郎
実施時間:10:00-12:00
【講義概要】
テーマ:「プラットフォーム型ビジネスの要諦と戦略展開の方法論」
21世紀のインターネットの世界的な普及によって、GoogleやFacebookといった新興の巨大IT企業が生まれてきた。これらの成功事例に共通するのが、「プラットフォーム」と呼ばれるビジネスモデルを取っていることである。プラットフォーム型ビジネスは、企業が顧客に価値提供する従来型のビジネスとは異なり、ユーザー同士が価値を提供し合い、技術や組織といった企業自体の資産ではなく顧客基盤やそこから生み出されるデータが競争力の源泉となる、特異なビジネスモデルである。
プラットフォーム型ビジネスモデルの特徴と収益性
この講義では、まずプラットフォーム型ビジネスモデルの基本的な構造、およびそこにはたらく経済原理(相互ネットワーク効果)を、事例に即しながら解説する。ここで取り上げるプラットフォーム型ビジネスモデルとは、デジタル情報空間上に構成されるサービスにおいて、異なるユーザーグループに所属するユーザー間の価値提供により、それぞれのグループのユーザーがプラットフォームを介さない場合よりも低コストで多様な価値を選択し享受することができるようになるもののことである。
ユーザーに対し、企業だけが直接的・間接的に価値提供を行う従来のビジネスモデル(ここでは「パイプライン型」と総称する)においては、ビジネスの持続的な優位性は企業の内部、すなわち独自の技術や製造ノウハウ、またそれに必要な原材料の調達力、供給チャネルの支配力などから生じてくる。これに対して、プラットフォーム型ビジネスを展開する企業(以下、「プラットフォーマー」という)の場合、優位性は企業の内部ではなく、顧客(ユーザー)の数やそのもたらすデータの量から生じる。これが、プラットフォーム型ビジネスが従来のビジネスモデルと大きく異なる点である。
たとえば、ネット上のキーワード検索と検索連動広告のビジネスを例に挙げると、ネット上のさまざまなウェブサイトをクロールしてインデックスを作成し、ユーザーの検索するキーワードに応じて結果を返すことは、さほど難しい技術を要するわけではない。だが、広告主はより多くの検索ユーザーのいる検索エンジンを広告掲載の対象として検討するため、既に圧倒的なシェアを持つGoogleに対抗して検索連動広告のビジネスを立ち上げて収益を上げようとしても、今さらではほとんど不可能となる。
ここで重要なことは、プラットフォーム型ビジネスにおいて主な収益源となる取引(トランザクション)は、収益をもたらすユーザーグループとは異なる、一見収益性の低い別のユーザーグループの多寡に左右されるということである。このため、プラットフォーマーは事業の初期フェーズにおいては収益度外視でユーザーを獲得し、価値提供を続ける必要がある。このような扱いを受けるべきユーザーのことを「優遇ユーザーグループ」と呼び、反対側の収益源となるユーザーを「課金ユーザーグループ」と呼ぶ。前述の検索サービスの例では、前者が検索ユーザー、後者が広告主となる。
プラットフォーム型ビジネスは、初期のユーザー獲得フェーズでは収益が上がらないままで多額の支出が続くが、優遇ユーザーグループにおいて過半のシェアを獲得してからは新規顧客の獲得にほとんどコストがかからなくなるため、高い収益性を期待できることが多い。巷に言う「GAFA」などのネット企業は、いずれもこうした特徴を備えており、これらの企業がパイプライン型ビジネスと比較して成長性や収益性で極端に高い理由である。
プラットフォーム型ビジネスの構築プロセスとその難所
この講義では、次に新興・中小の企業がプラットフォーム型ビジネスを実際に構築し、成長させていくための4段階のプロセスと、それぞれのプロセスで企業が直面しがちな課題とその解決方法について、日本国内の具体的な企業の事例を挙げつつ解説する。4段階のプロセスとは、以下のとおりである:
1.顧客にとっての大きな「欠損」を発見する
2.欠損を解消する新たな体験を創造し、その価値を極大化する
3.体験価値を高める協働パートナー(異なるユーザーグループ)を巻き込み、相互ネットワーク効果を生じさせる
4.顧客の体験において隣接する領域に価値提供を拡張し、より多くの顧客とデータを集め続ける
従来、このプラットフォーム型ビジネスモデルは、インターネットのビジネスと親和性が高いとされ、事例として取り上げられるのもGAFAに代表されるネット企業が多かった。本講義でも、日本国内でプラットフォーム型ビジネスを構築し大成功を収めたネット企業の事例として、料理レシピを共有するウェブサイトを運営するクックパッド(1997年創業、2009年東証マザーズ上場)を取り上げ、その成長プロセスにおける1~4の具体的な取り組みを紹介する。
また、純粋な新規事業ではなく、既にあったパイプライン型のリアルビジネスを途中からプラットフォーム型ビジネスに転換させることができるかどうかは、多くの企業経営者にとって関心の高い論点であるが、これまで日本に限らず世界的に見ても転換に成功した事例がほとんどなく、その取り組み方についてもノウハウが紹介されてこなかった。
この講座では、リアルビジネスをプラットフォーマーに転換させた希少な成功例として機械式駐車場(コインパーキング)運営のパーク24(1971年創業、1997年ジャスダック上場、2000年代前半にビジネスモデルの転換に成功)を取り上げ、リアルビジネスからの転換の手法やその成功のポイントについて解説する。
以上